第一話「敗北への予兆」
「理事長、オレたちやります。オレたちに日本少年をやらせてください!!」
あれから1年余り、彼らはよくやっているな。
メンバーの脱退という壁も、新たなパフォーマンスに挑戦することで、乗り越えようとしている。

今でも時々、夢に見る。
20数年前、もう一つの『日本少年』が、確かに、あった、、、、、、。



「解散しよう」
俺たちは、負けた。いや、厳密に言えば、俺が負けたのだ。

ロックバンド『日本少年』は解散した。
俺が命がけでやってきたバンドが、この世から消えた。

蒼い言い方だが、情熱とアイデアだけで、オトナばかりの音楽業界を泳いでいた。
最初は音楽が出来るだけで、ただバンドがやれるだけで良かったんだ。
一つの曲で繋がっているというメンバーとの連帯感。
10代でデビューした俺たちに、『天』は味方してくれていたと思う。
アルバムとシングルの同時リリースでのデビューは、今から考えれば、
幻のような体験だった。
常に微熱を纏っているかのような、高いテンション。
ライヴとメディアへの露出の繰り返し。
自分が選ばれた人間になったような、完全なる錯覚。

極彩色の夢を見ているような日々の中で、歯車が狂い出したのは
2枚目のアルバムのレコーディングが始まった頃だろう。

なんか、嬉しくない、、、、、。

初めてのレコーディングの時は、緊張や気負いもあった。
でも、一番心を占めていたのは、嬉しさだった。
雑誌やテレビでしか、見ることのなかった光景が、日常に変わる瞬間を全身で味わった。

それが、どうだ?
悪い意味での慣れが、そこにはあった。
メンバーもきっと感じていたに違いない。
でも、誰も言い出せないでいた。
今思えば、怖かったのかな。

スタッフは、きちんと仕事をこなし、マネージャーは明日だけを見ていた。
期待に応えたい。それも、また事実。

いろんなバランスが崩れていく。表面は綺麗なままに。

スケジュールは進んでいく。
時間は、何も解決してはくれない。

2ndアルバムは、きちんと完成した。きちんと?

リリースに向けて、ツアーや雑誌のインタビューなどが組まれていく。
アルバムの業界内での評判は、決して悪くなかった。
結局はこういうことだ。
悪くない、ということは「良い!」ということではないのだ。
曲のクオリティの問題ではないことは、バンドが一番良くわかっていた。
メロディ、歌詞、サウンドの構築などは、1枚目とは比べ物にならないほど進化した。

何か足りない要素があるとすれば、それは音楽そのものに対する「嬉しさ」「楽しさ」
「喜び」または「欲求」などであろう。

2ndアルバムがリリースされる。
売れ行きは、1枚目と同じ状況だった。
「同じ」は、この世界での負けを示唆しているのだ。
俺たちは、その本当の意味に気がつかないでいた。